ホピの聖地・再考3

-古代の帯水層と石炭採掘-

ホピは、トウモロコシの種付け棒いっぽんだけで砂地に穴を開け、そして種を蒔いてきた。必要以上に大地を傷つけることなく、灌水も施肥もすることなく、降雨量の極端に少ない高原砂漠地帯で、実に立派な幾種ものトウモロコシを育ててきた。
また、暮らすに必要な泉も湧いた。サードメサのホテビラ村には、メサ(台地)の中腹に今も泉が湧いている。かつては聖なる場所として外部の者には知らせてもらえなかったが、今は、観光客を迎えるためか、土のタイルやサウスウェストらしいデザインなどが配され整備されるようになった。
では、標高2,000m、年間降雨量100ミリの乾燥地帯で、なぜトウモロコシは立派に育ち、泉も湧くのだろうか。

それは、「偉大なる精霊の手形の甲」にあたるブラックメサの地下に、古代の帯水層が横たわっているからだ。

フォーコーナーズと4つの聖山
▲フォーコーナーズと4つの聖山
聖地ブラックメサの断面図 ビッグマウンテンはブラックメサの一部地域名 ホテビラはホピ・サードメサの村名 地表からの深さ900m、直径150kmに及ぶ

▲聖地ブラックメサの断面図
「ビッグマウンテン」はブラックメサの一部地域名
ホテビラ」はホピ・サードメサの村名
地表からの深さ900m、直径150kmに及ぶ

ナバホ・アクアファー(Navajo Aqufer)と呼ばれる帯水層は、地下3,000フィート(約900m)の底に横たわり、直径130km、3万5千年前にまで起源を遡る良質な水を湛える古代の帯水層だ。
しかし、1920年代になって、この表層に豊かな石炭鉱脈が見つかり、1950年代から石炭の露天掘りが始まった。そして、採掘された石炭運搬のために、この帯水層から地下水が大量に汲み上げられ、粉砕された石炭と地下水を混ぜ合わせて泥状にし、巨大なパイプライン(スレイリーラインと呼ばれる)で440km離れたネバダ州の発電所やナバホ居留地内のナバホ発電所まで運ばれてきた。
帯水層からの一日の汲み上げ量は、推移はあっただろうが、人口6万人ほどのフラッグスタッフ市全体で消費する一日の水量の2.5倍、ホピのキコツモビ村の一年分というほどの大量なものだ。

採掘した石炭を粉砕し、帯水層から大量に組み上げた地下水とともにスレイリーラインで運搬する。そのためだけに、貴重な太古の水は50年にわたって組み上げられ続けてきた。
▲採掘した石炭を粉砕し、帯水層から大量に組み上げた地下水とともにスレイリーラインで運搬する。そのためだけに、貴重な太古の水は50年にわたって組み上げられ続けてきた。

かなり古い資料だが、1968年ホピが発表した声明の翻訳がここにある。

「すべてのものは正しいバランスによって存在している。地下の水は磁石のように働いていて、雲から雨を引き出す。そして、雲の中の雨も磁石のように作用して、穀物の根の方へ地下の帯水層から水を引き上げる。
露天掘りに関連するブラック・メサからの大量の採水は、私たちが維持しようと努めてきたすべてのものの調子を狂わせている。もし本当にすべての調子が狂ってしまったら、この大地はホピのガラガラ(ラトル)のように揺れ動き、大地は渇き切ってしまうだろう。
ホピに与えられた、大地を教えのとおりに守ることに失敗したため、トウモロコシの収穫がなくなり、動物は死に絶える。トウモロコシが育たなくなった時、私たちは死ぬ。ホピだけではなく、すべての生命(生態系)が崩壊し、無に帰す。もう、あまり時間がない」

Revision Magazine(1987)より

また、石炭について、ブラック・メサのなかのビッグ・マウンテン地域で育ったあるディネ(ナバホ)は次のように語っている。

「ディネの教えによれば、石炭は大地でも特に重要な層で、人間の身体に例えれば、腎臓のようなものです。ちょうど腎臓が人間の体液を浄化するように、石炭はみずや全ての液体を浄化しているのです。石炭がこの大地のバランスをとっているのに、それに置き換わるものは何もないのです」

「Walk in beauty」サイトより

さて、今年2019年、このブラック・メサ炭鉱の閉鎖が決まったという。何年も前からその計画があるとは聞いてきたが、計画はそのつど延期になってきた。しかし、いよいよそれが実施されるかもしれない。石炭から安価になった天然ガスに移行しようというのだ。さらにスレイリーラインの老朽化もあり、企業としては経済性が成り立たないのであろう。
しかし、もろ手をあげてそれを喜ぶこともできないことが、人間的で悩ましい。収入の多くを石炭採掘料に頼ってきたホピ部族政府にとって、閉山は打撃であり、死活問題だ。

また、天然ガスが安くなったのは、フラッキングと呼ばれる水圧破砕法が開発され、これまで採掘できなかった深い地層・シェール層にあるガスとオイルの採掘が可能となり、アメリカ国内での原油と天然ガスの生産量が増えたことによるためだ。だが、このフラッキング法は次のような大きな環境破壊を引き起こしている。

1)大量の水が必要
2)有毒化学薬品の使用
3)オイルの漏洩による地表水と土壌の汚染
4)地下水の汚染 などだ。

事実、フォーコーナーズエリアでも、このフラッキングによるシェールガス・シェールオイルの採掘は始まっているのだ。

ナバホ帯水層は、毎年堆積されているため、鉱山からの汲み上げがなくなれば、帯水層は保たれるといわれている。しかし、石炭は半世紀にわたり掘り続けられ、すでに大地のバランスは大きく損なわれており、世界中いたるところで顕著になっている気候大変動同様に、フォーコーナーズエリアも気象の変化は免れてはいない。いや、この大地が破壊されると、地球全体に影響を及ぼすとホピは警告してきたのだ。

また、1972年から始まった強制移住法はいまだ効力を発揮しており、アメリカ政府や企業によって画策されたホピとナバホの間の亀裂は、世代を越えるものとなっている。

かつて伝統を守ってきたホピとナバホは、暮らし方や言語は違えど、棲み分けをし、儀式を共に行い、必要な食べ物などを交換し合ってきた。そのようにして、神聖な教えに従い、互いにこの聖地を守ってきたのだ。

今後も注目したい。

ブラックメサの水のカチナ(精霊)  水はすべてのいのちを保つ 彼女のその歌は、たった一滴の雨粒から始まり 川になり、大洋へと流れこみ 雷雲へと旅をつづける そして、ふたたび大地へと降り注ぐ 水が脅かされる時は すべての命が脅かされる

▲ブラックメサの水のカチナ(精霊)

水はすべてのいのちを保つ
彼女のその歌は、たった一滴の雨粒から始まり
川になり、大洋へと流れこみ
雷雲へと旅をつづける
そして、ふたたび大地へと降り注ぐ
水が脅かされる時は
すべての命が脅かされる

ブラックメサの帯水層と環境を守るために立ち上げられた活動体、ブラックメサトラストのポスター
▲ブラックメサの帯水層と環境を守るために立ち上げられた活動体、ブラックメサトラストのポスター
50年にわたり、ブラックメサでは石炭の露天掘りが続いてきた。 この採掘機の大きさや驚くほどだ。タイヤだけで人の身長ほどもある。
▲50年にわたり、ブラックメサでは石炭の露天掘りが続いてきた。 この採掘機の大きさや驚くほどだ。タイヤだけで人の身長ほどもある。